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注射、浣腸、聴診器、お尻ペン。

第30章 2つの選択肢

*回診






「美優、これからとっても大切なお話するから。落ち着いて聞いて欲しいんだ。」








『なぁに?』







「精神科の急性期病棟は、命に関わる緊急性の高い患者さんだけが入院するところなのね。緊急性がなくなった患者さんは、退院するか…転科してもらうか…選んでもらうんだけど。」







『退院とか転科ってそれ、どういう意味?
私にどこか他所へ行けってこと ?!』








「落ち着いて聞けないならもう話さない。」







『話さなくていい。私、このままここにいたいもん!りんたんと一緒にいたいもん!』








「美優…。」







『りんたんは違うの?私と一緒にいるのが嫌になった?』







「いいから、一旦落ち着こうよ。」







『りんたんが私を好きだと言ってくれたことも
愛してると言ってくれたことも嘘だったの?』








「嘘じゃないよ。話が飛躍しすぎてる。」









『別れ話のつもりなら、もう少し気の利いたこと言ってよ。』








「いやそれは、違うだろ。」







『私は病気だから、りんたんの身の回りのことを何もしてあげられない。それどころか、あなたの重荷になってしまう。あなたにはもっと相応しい女性がいるはず。でも、真剣に愛してるから別れ話が出ることが不安だったの。』








「不安…だったんだ?」








『不安で不安でたまらなかったよ。』








「ごめん。病気のことを引け目に感じてたなんて全然気付かなかった。」








『りんたん…。』








「美優の病気のことなら治せばいい。それだけのことじゃないか。」








『でも…。』







「この先は、医者としてじゃなく男として美優を大切に守りぬく。だから、別れるなんて絶対に言わないでくれ。」







『私、りんたんのために1日でも早く病気を治したい。だから勇気を出して内科へ戻る。』







『美優が元気になるまで待ってるからな。』






『うん。』






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