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注射、浣腸、聴診器、お尻ペン。

第43章 包み込む愛

2日後、夜の回診にきた脇坂先生が部屋を見回すと美優の姿がなかった。








「美優ちゃん?いない?どこに行ったかな?」








部屋の電気は付けたままだし、空のベッドには
温もりが残ってた。








「かくれんぼしてるのかな?」







耳を済ますと、カーテンの隙間から
しくしくしく…と泣く声が
聞こえた。そして、部屋の隅で
体を小さくして震えている美優を見つけた。








脇坂先生は、しゃがんで視線をあわせて「どうしたの?」と心配そうに声を掛けた。







そして、美優の前髪を掻き分け、おでこに手を当てて熱がないか確かめた。







「寒くない?ベッドに戻ろう。」








何を言っても、しくしく…と震えながら泣くだけで返事はない。







「もしかして明日の透析が嫌で泣いてるの?」







そう質問すると、やっと顔を上げて頷いた。







脇坂先生は、白衣のポケットからハンカチを取り出し、美優の涙をそっと拭った。








「風邪ひいちゃうからベッドに戻ろう。」









『もう少しこうしていたい。』







「それじゃあ少しだけね。」そう言ってから
脇坂先生も床に座った。






「お尻つめたいっ」と言う、脇坂先生がかわいくて…ほっこりした。








「今泣いた烏がもう笑った」







『カラスじゃないもん。』







「そうだね。僕の前にいるのは
泣き虫で頑張りやさんの美優ちゃんだね。」








『うん。』







「透析頑張ってみない?ずっと
先のことまで考えると苦しくなるからさ。
次の1回をどう乗り切るかだけ考えよう。」







『いやぁ。』







「嫌なんだね。」







それからしばらくの間、会話もなく
ただ肩を並べて寄り添っていた。




脇坂先生が、私の気持ちに
【深く共感してくれる】ことが
【心の支え】になるんだと思う。










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