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機動戦士ガンダム~サナトリウム~  

第3章 君の名は・・

美味しい空気に触れようとジローはベランダに出てみた。

ベランダには先客がいた。髪が長い美しい女性である。

女性に声をかける。こんなことが前にもあったような気がする。ジローの記憶は所々失われているのだ。

「空気も美味しいし、いい景色ですね」

優しく美しくも雄大な高原を眺めながらジローが言った。

「優しくて澄んだ景色ですね。わたしにはそう見えるわ」

女性はそう言って微笑む。目が見えていない様子だ。女性もジロー同様に杖をついている。

女性も戦争で身体が不自由になり、しかも一切の記憶と視力までも失ってしまっていた。

ジローと女性は度々ベランダで会うようになった。女性は症状が悪くて起きれない時の他はベランダに出て絵を描いている。

目は見えないが、心の目に見える景色を心のままにキャンバスに描いている。その絵はどれも目が見えないなんてことが信じられないぐらいに美しく優しいタッチで描かれている。

ジローは彼女の絵が好きだった。

ジローと女性の病室のある階に例の酷い咳が聞こえる部屋があった。時には吐血をしているような音も聞こえてくる。

その部屋から咳が聞こえなくなった。
咳どころか一切の物音も聞こえなくなった。
それは、部屋の主の重病人の命が尽きたことを意味している。

ひとつの命が尽きたというのに、スタッフたちは淡々と葬儀の準備やら後片付けやらを進めている。

「わたしの命も後どれぐらいかしら・・せめてわたしが生きていたことを遺したくて一生懸命に描いているのかしらね」と女性は物憂げに言った。

「素晴らしい絵だよ、生命の躍動さえ感じる。こんな生命に溢れた絵が描ける君の命はまだ続くよ」とジローは優しく言った。

女性の描いた絵に感動をしながら、自分が遺したものは最悪の黒歴史だとジローは嘆いていた。

ジローのガンダムはそのホワイトカラーと圧倒的な強さから白き死神と呼ばれていた。
その名のとおりジローは次々と敵のモビルスーツを撃破して幾つもの命を奪った。

そして、ついには帝国側の幹部となってしまった最愛の女性まで撃墜することになってしまった。
暴走する彼女のモビルアーマーに銃口を突きつけるガンダムの姿がジローの脳裏に甦る。

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