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朧と弦之助

第1章 千秋楽

天膳が容赦なく柱に縛り付けたかげろうを責め苛んでいる
朧は傍らでなすすべなく呆然としている
弦之助が忽然として現れて春日局の侍たちを威圧し屋敷のなかえ押し通る
騒ぎに気ずく天膳
「きたか」
庭におりて弦之助と対峙する天膳
「導術の使えぬ貴様など取るに足らぬ」
太刀を抜き放ち鋭く撃ち込む天膳
目を閉じたまま弦之助が受太刀で鋭い天膳の撃ち込みを何度もかわす 受太刀だが少しもおされることはない
弦之助は目を開く
「貴様 目が見えるのか 馬鹿な」
導術によって自らに太刀をあてもがく天膳
そのとき弦之助は太刀を一閃天膳の首が宙に舞いさらにニ閃首は四つにわかれ地面におちた
「口が過ぎたな 天膳」
後ずさりする春日局の侍達を弦之助は一喝
「手出し無用」
弦之助は構えの中に入ると柱にしばられているかげろうに
「かげろう 遅れてすまぬ」
すでに舌を挽いて意識が朦朧としているかげろう弦之助をみると微笑んで
「死に遅れて申し訳ありません」
こと切れるかげろう
弦之助は縛を断ち床に寝かせ羽織を掛けてやる
巻物と矢立をとりだして
双方技を尽くして十分戦った
わたしは朧を討つ気はない
後は将軍家の御心のままになさるべきであります
甲賀弦之助 朧を貰い受ける
と書きつけると
「鷹よこれを駿府へとどけよ」
巻物を投げ上げる
巻物を咥え飛び去る鷹
呆然としている朧の手を取り
「朧殿 参ろう」
朧は開かぬ目を向け
「はい」
弦之助は遠巻きにしている侍たちの中を怯むことなく朧の手を引き進んでいき朧を抱えて馬に乗ると走り去った
後を追おうとする侍に頭立った侍が
「我等がどうこうできる者か あれは やめておけ」
駿府の大御所
「初めから将軍家のお心にまかせるべきであったな 追うな 二人を行かせてやれ 佐渡人別帳に名のある者の家族には捨て扶持を 双方家督を立て加増を奉行せよ」
「御意」
「心無いことをしてしまった 弦之助よ信じる道をゆけ」
深い森のなか
瓦屋根の寝殿造りのきざはしに腰をおろして笛をふく少年
構えのなか
朧と抱き合う弦之助
「朧殿 わたしの力がたりないばかりに辛いおもいをさせてしまった もう迷うことはない この身に変えても あなたを守る」
「わたくしはどこまでも弦之助さまについて参ります」
村人たちが開削したばかりの田に用水路から水をひいている



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