テキストサイズ

sweet poison【BL】

第3章 絶望の中の行為

羽月は最初から、陽一と死ぬ為にここへやって来たのか。

「ぐほっごほっ、がはぁっ…」

呼吸音がおかしくなってきた。

羽月の言うとおり痛みや苦しさはないものの、熱さが体中を駆け巡っている。

そして甘い匂いも吐き出したいのに、もう体にそんな力は残っていなかった。

その様子を見て、羽月はカバンの中から一本のナイフを取り出し、自分の手首に当てた。

「はづっ…! やっめ…」

震える手を伸ばそうとするが、指先すら動かなくなっていた。

熱が全てを支配してしまっている。

体の動きも、そして呼吸すら自分の意思ではどうにもならなかった。

次第に眼が霞んできた。

このままじゃいけない。

少なくとも、陽一は死ぬつもりなんてなかった。

生きて、例え離されたって、再び会うことを目指して生きていたかった。

そう、死にたくはない。

生きて、羽月と一緒にいたい。

それを大声で伝えたいのに、唇も舌も動かなかった。

ただ悲しみの色を浮かべた黒い眼で、羽月の悲しげな笑みを見つめることしかできない。

そっと羽月の顔が下りてきて、唇にキスされた。

「愛しているよ、陽一」

「はづ…き」

出した言葉は、音にもならなかっただろう。

そこで陽一の意識は黒く塗り潰された。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ