
兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第5章 残したくても忘れるもの
悠side
月始め。憂鬱な時間がやってくる。
その日はいつもより遅く起きて、コップ1杯の水を1時間ほどかけて飲み、出掛ける。
兄たちの朝食も作らないし、洗濯も掃除も普段やっている事は何もせず家を出るのだ。
それを誰も何も言わない。
暗黙の了解、というやつなのだろう。
そしてお昼頃、駅の小さな広場にある時計前に立つ。
母親に会うために。
「(ちょっと早く来てしまった)」
電車を降りて、構内を普段より小さな歩幅で歩く。利用人数の多い駅で、何人かに軽く肩をぶつけられ、何度か舌打ちをされた。
こんなに足が重くなったのは初めてだ。
あの人に会う、ということを初めて意識したのか。それとも学校に行かなくなった理由に少なくともあの人が関係しているからだろうか。
後者だろう。
直接関わっている訳では無いのに、何となく会い辛い。
***
あの人は、俺の産みの母親だ。14歳の時にたった1人で俺を産んだ。
彼氏がいた事さえ誰にも話していなかった彼女は、妊娠した事を隠していつも通りの生活を送り、風呂場で俺を…。
「悠!」
自分を呼ぶ声に顔を上げると、いた。
いつもの笑顔。その目元は俺そっくりに笑う。
「…澪さん」
俺の、母さん。
