
兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第5章 残したくても忘れるもの
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「…それ、美味しい?」
澪さんと会う時は、必ずと言って良いほど何処かで昼食をする。
今日はイタリアンでパスタをひと口啜れば、これまた必ずされる質問が来た。
「ん、美味しい」
「良かった。ここね、最近お気に入りだから悠にも食べて欲しかったの」
傍から見たら俺たちはどう見えるのだろう。
親子に、普通のなんの歪みもない親子に見えるだろうか。
たぶん、見えていない。年の離れた姉弟か、法律上アウトな恋人同士、そんな所だろう。『14』という歳の差はどうやったって親子じゃない。
「・・・学校は?何が楽しい?」
自分からは決して口を開かない俺に、澪さんが投げかけてきたのは普通だったら当たり障りのない質問。だけど、今の俺には傷口に塩。
痛い。
「別に、普通。楽しいとか、ない」
『行ってない』とは言えない。
だって、その原因は貴方だと言ってしまいそう。
「そっか、確かに私もそうだったなぁ。勉強も部活も嫌いだったから、楽しみなのは給食くらいで…」
ポリポリと目元をかきながら照れ笑う彼女。
「ごめんね…?話したいこと考えてたんだけど緊張しちゃって、忘れちゃった」
実の息子、しかも毎月会っているのに。
いつも、こうだ。澪さんは未だに俺に慣れていない。
腫れ物を扱う様に俺と接する。
そうされる度、無理しなくていいのにと思う反面、いっその事「これで会うのは最後ね」と言ってくれればどれだけ楽かとも思う。
別に彼女のことが嫌いとかそういうことではなくて、俺たちはもう別々の人生を歩んでいいんじゃないか。
俺には『母さん』がいるわけで。
彼女は『息子』に縛られなくていいはずで。
まだ30前。結婚をして家庭を築いてもいいのに。
彼女は俺にずっと『息子』として向き合おうとしてくる。もう、いいのに。
「今日はね、渡したいものがあって…はい、これ」
「…なに、これ」
茶封筒だった。たぶん中身は、
「少しだけど、来年は受験生でしょ?参考書とか買う足しになればなって」
「いいよ。受け取れない」
これは、これだけは違う気がする。
澪さんからお金をもらうのは、俺が方来の家に養子に入ったことを否定するようで。俺の今までを殺すようで。
息が詰まる。
