
兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第6章 愛を知らない長男は
智希side
彼女、ねぇ・・・。
今はいない、けれども昔はいた。
中学3年の冬、受験でピリピリするあの時期に彼女___瀧村 明灯(タキムラ アカリ)だけは、変わらない空気を出していたのを今も覚えている。
『方来くんのお昼それだけ?育ち盛りなんだから、もっと食べなきゃ!はい、玉子焼きあげる』
初めてした会話はそんなだったと思う。
コンビニで買ったジャムパンを一人食べていた時のことだ。ちょっとしょっぱい玉子焼き。
それからというもの、彼女は事ある毎に俺にお昼ご飯を分けてくれるようになって。1ヶ月もするとそれはお弁当になっていた。
『美味しい?』
たまに振られるその言葉に、
『明灯ちゃんのご飯は全部美味しいよ』
と答えていた。本当にそうだった。
たった一つ、ご飯を除いて。彼女の炊くご飯はいつも水分が多くて、だけどそれが彼女らしさでもあったのだ。
『付き合って、くだっさい…!』
俺たちが恋人になったのはそれからすぐのことだった。あんなにも彼女が頬を赤く染めているのを初めて見た。
どうしたらいいか分からなかった俺は、その自分より華奢で小さな体をそっと抱きしめただけ。
それでも彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
付き合い始めて、恋人という関係になって変わったことはキスをする、それだけで。あとは何も変わらなかった。
これが、それが、恋愛なのだと俺の中では完結していたけれど彼女はそうではなかったようだ。
卒業するほんの1週間ほど前、初めて彼女が俺に怒りという感情をぶつけて来た。
『智希はさぁ、私の彼氏なんだよね?なんで特別にしてくれないの、他の女の子と私って何が違うの?』
言っている意味が分からなかった。
彼女は俺の恋人で、それが既に特別だったから。
『優しい智希が好き。でも私以外の子の荷物持ってあげたり、怪我してるのおぶって保険室連れてったり、しないでよ・・・』
なんで?
聞きたかったけど、聞いたらダメだと思った。
『私、智希はもっと、大切にしてくれて愛してくれる人だと思ってた』
わからない。
大切にしていたよ、大切にしたいと思ってたよ。
だけど、愛するってなんだろう。
