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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第6章 愛を知らない長男は


智希side

ベランダで夜風に当たりながら画集を広げていると、コンコンと窓を叩く音がして。

顔を上げるとすぐ下の弟が缶のジュースを持って笑っていた。

***

「兄さん最近変だよ」

そんな言葉にベランダの縁へ腰掛ける横顔を見てしまった。缶ジュースを傾ける指が作り物みたいで、思わずそちらに目が行く。

「・・・って、悠が言ってた。何かあった?」

やっぱり末っ子には敵わないなぁ、どんな隠し事もすぐにバレてしまって。特に悠は人の感情に敏感だからね。

「俺には愛が足りないらしい」

「・・・哲学?」

「いや、物理」

「何それ。誰かに言われたの?」

「元カノ」

「あー・・・瀧村さん」

まさか鶫の口から彼女の名前が出てくるとは思っていなくて、手から缶が落ちそうになる。顔なんてギャグ漫画みたいに眼球が飛び出るかと思った。

「気づいてないとでも思った?つーか、鶫くんの情報網舐めないで貰える?」

悪戯が成功した子どものように笑う鶫に、どこまで知られているのかと少し心臓の音が早くなった。

「もっと愛して欲しかったって、言ってた。
俺は俺なりに彼女・・・明灯を大切にしていたけどそれじゃダメだったんだ…」

傷口が裂けていく。肉の柔らかいところが剥き出しになって、血は出ないけど、痛い。

「兄さんは優し過ぎるからね。優しさは愛じゃない。愛はもっと激しくて痛い、狂おしいほどに欲しくなるものなんだよ」

「・・・鶫が大人だ…」

「そ?・・・うーんまぁ、これも恋愛相談とか受けた時に女子が言ってたことなんだけどね。でも、兄さんが優し過ぎるのはホントだよ」

優しすぎる、か。
ダメなの?好きな人たち皆に優しくするのは。

だって、優しくしなきゃ・・・

みんな居なくなってしまう。

そうじゃなくても、人は突然居なくなる。

それが何より怖い。

「…問題です。彼女が居る時に女の子に告白されて、彼女が居ることを理由に断ったら"思い出"にキスしてくれたら諦めるって言われたらどうする?」

「え・・・キスする。それで諦めてくれるなら。それに勇気を出して告白してくれたんだし…」

「はいダメー!兄さん、あのね。その事を彼女が知ったら凄く嫌な気持ちや悲しい気持ちになるんだよ。それに、多分キスをしたら諦めてくれないよ。希望があるように見えちゃう」

あぁ、そうか。だから彼女は、

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