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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第6章 愛を知らない長男は


だから彼女は、『色んな女の子に優しくすることをやめて』と言ったんだ。

不安にしないでって。
あの時の泣きそうな顔はそういうことだった。

「でも、さ・・・そしたら、その告白してくれた子は俺のこと嫌いになるよね。もう話しかけてくれなくなるよね…それは、嫌だ」

「兄さん」

「人に優しくしたら自分に返ってくる。じゃあ逆もでしょ?俺が人を悲しませたらそれも自分に返ってくるでしょ?」

あの日の声が頭に響く。

『ほら、あの子が産まれてからよ。___さん不幸続きで。奥さんも早くに亡くなって』

『まるで疫病神だ』

『あんたのせいよ。あんたなんか誰も欲しがらない』

俺が悪い子だったから。
だから父ちゃんは死んだんだ。

***

その日は雨だったが、父ちゃんと俺の誕生日のケーキを買いに行った。本当は晴れたら買いに行く約束だったけど、我儘を言って無理矢理だ。

その帰り道。

雨でスリップした大型のトラックが歩道を歩く俺たちに突っ込んできた。

父ちゃんは咄嗟に俺を突き飛ばした。

『智希っ!!』

今でも鮮明に覚えている。最後の声だった。

それから俺は救急車が来るまでの間、雨と、血と、クリームとが、流れるのをただただ見ていたんだ。

***

俺が、我儘さえ言っていなければ。
父ちゃんはトラックに引かれることなんてなかったんだ。今も俺の父ちゃんだったんだ。

「・・・鶫。俺、嫌だよ。もう、好きな人が居なくなるのは嫌だ」

『智希。人に優しくしなさい。人との繋がりは何にも代えられない宝物だからね』

父ちゃんの口癖だった。
だからその通りに生きようと思った。

「…そうだね。好きな人がとつぜん居なくなるのは俺も怖い。それは、皆も同じ気持ちだから。だから、瀧村さんも怖かったんだよ。兄さんという好きな人が自分以外の人のモノになるのがさ」

俺が誰かのモノになるのが怖かった…?

明灯も俺と同じように好きな人が居なくなることに怯えていた…?

「俺はどうしたら愛を伝えることが出来るのかな。誰も失わなくなるのには、どうしたらいい・・・?」

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