
兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第8章 ママ、お母さん、母さん
『方来くんが好きです。
良かったら、付き合ってくれませんか…?』
そんな風に告白されるようになったのは中学に上がってからだった。
見たこともない女の子が好きだと言ってくるのはちょっと気持ち悪いと思っていた。
だからいつも断っていた。
理由はなんでも良かったから、適当に流した。
だけど、たった1人。
あの子は違った。
『1週間でいいの。付き合ってみて、私のこと好きにならなかったら、その時振ってほしい』
そう言って、俺の手を握った。
全身の毛が逆だった感覚がして、鳥肌がたったのだと分かった時には遅かった。
俺はその女の子の前で、吐いた。
女の子の顔に『みぃちゃん』が重なったのだ。
まだ幼さの影がある顔で、声で、体で、そんな歳で、自分を産んだのだと変な実感が湧いて怖くなった。
「ごめんなさい」
そう、声が聞こえた。目の前の女の子が謝っているようだった。それすらも、みぃちゃんに見えて何も言えなくなって、逃げた。
その日から俺は不登校になった。
***
「・・・また夢…」
何度も何度も同じ夢を見ては目を覚ます。
あの子には悪いことしちゃったな、目の前で吐くなんて。彼女は何も悪くないのに。
枕元の時計を見れば朝の5時。早いけど二度寝したら逆に体が重くなりそうで、ベッドを抜け出した。
裸足に直接床の温度が伝わってくる。
そろそろ秋も終わるだろう。そんなことを思いながら階段を下りると、リビングから音がする。
「智にぃ・・・?」
また作品に没頭していて徹夜したのだろうか。
本当にあの人の生活リズムはヤヴァイと思う。
脅かしてやろうと、そっとリビングの扉を開けて中を覗く。棚の前で何かを探しているようだ。
「え、あれ?母さん?!」
智にぃじゃなかった!
そこに居たのは、滅多に家に帰って来ず都心のマンションから女優業へ行く方来家の稼ぎ柱だった。
「びっくりしたー。悠、あなたこんな早くに起きてたの?」
「こっちの方が驚いたよ。まさか母さんが居るなんて思ってもみなかったから。…今日はたまたま起きちゃって」
俺の言葉に母さんの手が伸びてきて、頬を掠める。
「・・・あまり眠れていないみたいね。今日だけじゃなくて、いつも起きちゃうんじゃないの」
どうして、わかってしまうんだろう。
それが『母親』だからというのなら、少し寂しい。
