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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第8章 ママ、お母さん、母さん


***


"そこに座ってなさい"

そう指をさされたソファに大人しく座る。
この家で母さんを見たのは何時ぶりだろう。

いつもは画面の中にいる、その時とはまるで別人な母さん。これが家にいる時の、方来ことりという一人の人間であり母親の顔なのだろうか。

母さんは唯一この家で血の繋がりのある人がいる、それが次男の鶫くんだ。

詳しいことは知らないけれど、父さんと出会う前の母さんはシングルマザーだったようだ。

・・・どんな感じだろう。

血の繋がった誰かと生きるのは。

「悠」

凛と強い声で名前を呼ばれた。
反射的に顔を上げると、険しい顔をした母さんだった。

「また何か難しいことを考えてたのね。…今はこれを飲んで考えることをやめなさい」

手渡されたマグカップには、温められた牛乳に小さくてピンク色のマシュマロが浮いていた。

「可愛い…」

「昨日ドラマの現場で貰ったの。…やっと笑った」

そう言って母さんも微笑む。その顔は鶫くんそっくりだった。

「ねぇ、悠。学校に行ってないこと鶫から聞いたわ。私はあなたに無理に行けなんて言わないし、休んでいる間に何かを見つけろとも言わない」

きっと口早にそう言ったのは、俺がその話をされると逃げるだろうと分かっているから。

昔から、自分の中で答えが出ていない事を誰かに話されることが嫌いだったから。

ぜんぶ母さんは分かっているの?

「でもね、悠。何もかも真正面から受け止めようとしなくてもいいのよ。あなたは真面目だから、誰かの想いや記憶を、自分の持ってる全てで理解しようとしちゃう。そんなことしなくていいのよ」

ガツーン。
重い物で後頭部を殴られた様な感覚。

あれ、俺ってそんな大変そうなことして生きてたのって。当の本人なのに、言われて初めて気づいた。

澪さんのことはいつだって、寂しくて悲しくて重くって心も体も身動きが取れなかった。

「上手く受け流すのとはちょっと違うけれど、ボールをバウンドさせて取った方が取りやすいように言葉や想いも1度バウンドさせることを覚えなさい。
それから、悠自身の言葉や想いを吐き出せる場所を持つこと」

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