
兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第12章 血液はいつかの鉄棒の味がする
鶫side
悠が出ているCMを見て、湧き上がった最初の感情は怒りだった。どうして一言言ってくれなかったのか。どうしてコソコソとその場から逃げようとしたのか。どちらの悠にも腹が立った。
だけど。
サンドイッチを噛んで、飲み込んで。食べ終わった食器を片付けて、なんてしていたら。
大きかったはずの怒りは、いつの間にか小さくなっていて。代わりに、あの頃の幼い感情がムクムクと膨れ上がっていくのをどこか遠く、他人事の様に見ているかのようだった。
「寂しいよ、言ってくれなきゃ。でも、仕事って言えば良い訳でもないんだからね。…残されるこっちは毎日寂し、く…て」
そう言ったのもどこか上の空で。
自分なのに自分が言っているんじゃないみたいで。
言い切ってからハッと気づいて、その場の空気に押し潰されそうで。
「ごめん、」
何に対して謝っているのか分からない言葉が、ぽつりと空気の中に溶けていった。
***
そのまま誰も口を開くことなく、バラバラにどこかへ行ってしまった。
多分だけど兄さんはシャワーを浴びに風呂場。悠はゲームをしに自室だろう。これだけ兄弟をやっていれば分かる。
リビングに取り残された俺は目を閉じた。
真っ暗な闇の中で、さっきの自分の言葉を繰り返す。
「(寂しかった、か・・・)」
父さんと母さんが結婚して、兄が出来た。急に出来た兄は優しくて強くて憧れだった。
すぐに悠がやって来た。小さくてふわふわで、初めて見る赤ちゃんだった。
人は3歳までの記憶がほぼ残らないらしい。しかし、俺は所々覚えていた。母さんと2人だった 頃の記憶と兄さんに初めて会った時の記憶だ。
悠が俺の弟になったのは4歳の時だから、それなりにしっかり覚えていて。その時にはまだ中学生の澪さんが…、そう色素の薄い見た目が悠とそっくりなんだ。
あれ?寂しかったって記憶はいつ?
遡ってみて分かる。俺が寂しかったのって本当に一瞬だった。悠が来るまでの時間だ。
確かに兄さんはいつも一緒にいてくれた。だけど守られている時は気づかなかった。自分ばかりで周りなんて見えなくて。
でも悠が弟になって、初めて守る対象が出来て。
満たされたんだ。
悠を守ることが自分の存在意義だと幼心に思ったんだ。
だから、そんな悠が自分の手の届かない所へ行ってしまうのが本当に怖かったのだ。
