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時計じかけのアンブレラ

第5章 分岐点

コンビニから歩いてすぐの所に翔君の部屋があって。
俺を車から降ろした時に、マネが翔君に連絡をしてたらしい。

オイラ、知らなくて。
いつもそんなことしてたんだ?って、ちょっと驚いたんだけど。
マネの電話から30分経ってもオイラが来ないから、心配して迎えに来た、って。

翔君、すごい怒ってて。
俺の手を引いて大股でずんずん歩く間、むっつりと黙り込んでた。

部屋に帰ったらソファに座らされて、いきなり言われる。

「ねぇ、俺はそんなに頼りない?」

「…え?」

「またそうやって一人でカタを付けるつもり?
悪いけどダメだよ」

「何が…?」

「俺はもう、あの時みたいなのは懲り懲りだから
貴方が抱えてるものは全部吐き出してもらう
今言えるところまででいいから
何を考えてるかちゃんと話して
お願い」

抑えた声に怒りがまだ滲んでた。
だけど目が悲しそうで。
どこか痛いのを我慢してるみたいで。
あの時の青江さんと同じ顔をしてる。

そうか、と思った。
青江さんが来ないのは、翔君が俺と話すからなんだ。

あの時。
宮城の前には、俺は翔君と話せなかった。
だから翔君は、青江さんになってオイラに会いに来てくれたんだ。

オイラがあの時一人きりで苦しんでたことを知ってて。
時間を越えて会いに来てくれた。



『病めるときも、健やかなるときも
富めるときも、貧しきときも
君を愛し
敬うことを

例え死が、二人を分かつとも
智君、俺は貴方の傍に居る』



あの時、青江さんはそう言った。
青江さんが翔君だ、って信じられないでいる俺に、この先自分は青江という役をする、って。
今は信じなくてもいいから、いつか櫻井翔から青江という役の話が出たら、証拠だと思って欲しい、って言った。

「しょおくん…」

オイラ、バカだった。
目の前に翔君が居るのに、青江さんが来てくれたら、なんて。

青江さんはオイラの目の前にいるこの人。
オイラのことを誰よりも大事にしてくれる、この人。

ソファに横並びに座ってる翔君に腕を伸ばす。
そっと抱きしめると、ぎゅって抱きしめ返してくれる。

その温もりはいつもオイラをひどく安心させるから。
自然に目を閉じて、深呼吸する。

「オイラ話すの上手くないけど
頑張るから、聴いてくれる?」

うん、と言った翔君の声は、もう怒っていなかった。




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