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時計じかけのアンブレラ

第3章 2015年9月

銀座のデパートで、目に飛び込んで来たスカイブルーの傘を見て、久しぶりに青江さんの存在を思い出してた。

この15年。
正直、青江さんのことを思い出す余裕は全くなかった。

今年は松潤の誕プレを渡すのが遅れてて。
昨日、傘を失くした、って大きな独りごとを言ってたからさ。
丁度台風シーズンだし、失くさないように少し値段の張る良いヤツを買ってやろうかと思った。

松潤のだし、ホントはもっとオシャレな街で買い物したかったんだけど。
なるべく若者が少ない街にして、ってマネに言われて…。

デビューしてから数えたら、最後に青江さんに会ったのも、もう15年以上前ってことになる。
あの人もイイ年だろうし、今会っても顔がわかるかな…。

実際に会えばきっとわかる、とは思うけど、翔君に似てた、って印象が強くて。
青江さんのことを思い出そうとすると翔君の顔がバーンと浮かんでしまう。

何しろ今じゃ、半同棲状態で。
四六時中一緒に居るから仕方ない。

いつだったか青江さんがオイラのことを、記憶力が良い、って誉めてくれたことがあったのに。
思い出せる自信がないなんて申し訳ないなぁ、と思う。
オイラのことを、青江さんもテレビで見たり、してるんだろうか。

売れたくて必死にもがいていた俺達が、今じゃ周りに迷惑をかけないように外出にも気を遣うようになって。
なんか、いまだに現実感がない。

落ち着いて買い物をするのも厳しい現実に、ちょっとだけ、ため息が出た。

並んだ傘の前で物思いにふけっていたら、何となく周りに人が増えてきたような気がして。
結局、買い物をせずに外に出る。

目の前に停まってた客待ちのタクシーに乗り込んで間もなく、マネージャーから電話が入った。
きっと心配して電話をよこしたんだろう。

そう思いながら電話に出ると、異様に焦った声のマネが、事務所から緊急の呼び出しが入った、って。
何度もどもりながら言った。

2015年9月のことだった。




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