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Melting Sweet

第3章 Act.3

 彼女はどうやら、杉本君に気があるようだ。
 持ち歩いていたピッチャーにはまだ半分以上もビールが入っているのに、杉本君の所に来たとたんに全く動かなくなったのは、杉本君の側を離れたくなかったからだろう。
 ヒソヒソしていたのも、私と杉本君の関係に好奇心を持ったからというより、一緒にいた私に嫉妬したからなのかもしれない。

 ――優しいし、見た目もまあまあいいからねえ……

 杉本君の横顔をこっそりと覗いながら、そんなことを考える。
 ちょっとばかりチャラいような気がしなくもないけど、無節操というわけでもないから、同性はもちろん、女の子の受けも良いのだろう。
 容姿も凄いイケメンではないものの、アクがなくて嫌味ったらしさもない。

 ――杉本君のような彼を持ったら幸せかも……

 不意にそんなことを考え、ハッと我に返った。
 私はいったい、杉本君に何を期待したのか。

 杉本君は確かに悪くない。
 けれど、仕事上では私の部下に当たり、トシだって十歳も離れている。
 アラフォーの私と二十代の彼とでは、どう考えたって釣り合いが取れるわけがない。

 ――どんなにいい感じに接してくれたって、結局は若い子の方がいいんだから、絶対……

 心の中で吐き捨て、私はグラスを空にする。
 ちょうど手近な場所にピッチャーが置かれていたから、それに手を伸ばすと、手酌で新たにビールを注いでゆく。
 白い泡はほとんど消え、琥珀色の液体だけがグラスいっぱいに満たされる。
 しばらく放置されていたそれは、口にするととても温く、炭酸もほとんど抜けたただの麦芽液でも飲んでいるような感覚だった。

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