テキストサイズ

Melting Sweet

第3章 Act.3

 居酒屋に着くと予想通り、私と杉本君は、すでに待機していた職場仲間に好奇の目に晒された。
 直接からかわれたわけじゃない。
 けれども、私達を見てあからさまにヒソヒソし出した子達がいたから、嫌でも察してしまった。

 杉本君はというと、『困りません』と言いきっていただけあって全く気にしていない。
 いや、もしかしたら、気付いてすらいないのだろうか。

 私と杉本君は幹事の子達に会費を払い、何故かその流れで隣同士で席に着いた。
 チラリとヒソヒソしていた子達を覗うと、慌てて私から視線を逸らす。
 あからさま過ぎて、怒る気にもなれない。

「すみません、先に飲むものを決めてもらえませんか?」

 すぐ横から声をかけられた。
 私はハッとして、その子に向き直る。

 彼女は私に飲みもののメニューを渡してこようとしたけど、私はそれを手で制し、「ビールでいいわよ」と告げた。

「分かりました。えっと、杉本君はどうする?」

 彼女は首を伸ばし、杉本君に訊ねる。

「俺もビールで」

 杉本君もメニューを見ずにあっさり決めてしまった。

 彼女は、「了解。ではビールふたつで」と繰り返し、私達の側を離れてゆく。

 辺りは騒がしいはずなのに、何となく、私と杉本君の周りだけは妙に静まり返っている気がする。
 ここまで向かっている間はよく喋っていたのに、着いたとたん、急に無口になってしまった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ