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若葉

第1章 文化祭

浴衣に身を包み自分の教室を目指して歩いていた。
教室がある本館と、職員室がある新館をつなぐ渡り廊下にさしかかる。

『…智君…』

俺を呼ぶ弱々しい声が聞こえた。
振り向くとそこには、両肩を撫で下ろし、うつむきながら歩く櫻井翔がいた。

『翔ちゃん…またこんなになって…』

俺は両手を広げ、自分の胸の中に彼を迎い入れる。
自分より、少し背が高いはずの彼が、今はとても小さく見えた。
俺の肩に顔を埋め、背中にまわされた手は甘えるようにしがみつく。

『また頑張りすぎちゃったんだね…責任感強いからね』

少しでも癒しになってくれればと、優しく背中をさする。
抱きしめられる腕に力が入る。
『智君…大好きだよ…』
『俺も大好きだよ。翔ちゃん』
その言葉に、彼は顔をあげる。
『じゃあ…俺のものになってよ…』
『…』
返せる言葉がなく、悲しい気持ちで笑顔をむける。

『智!!てめー何してんだよ!!』

廊下に響き渡る怒鳴り声。

まわりの生徒達は、触らぬ神に祟りなしとばかりに
散り散りになる。

『翔ちゃん…またね』

抱きしめていた腕を離し、怒鳴り声のもとに歩いていく。
渡り廊下にある広間には休憩所がある。
自分を呼ぶ声は、そこから響いていた。

ベンチにどっかりと座り、こちらを睨みつける松本潤がいた。
まわりには男女数人の仲間…というか手下というか…ガラの悪い連中がいた。

『智、いい度胸してんだな』
『浮気するような彼氏なんかやめて、私にしときなよ〜潤』
『そうだ、そうだ。俺でもいいぜ』
耳障りな笑い声と、好き勝手な言葉。

『潤君…』
座っている松本のそばまで行くと、急に腕を引かれる。
バランスを崩した体は、そのまま松本の足の上に座る形になった。

『な〜智〜、浮気は良くないぜ』
顔を覗き込み、あえてドスをきかせた声。
『浮気なんてしてないじゃん?』
平然と答えた。
『へー…ならいいけど』
疑う目が何か言いたげだが、作り笑顔を向ける。
会話の間、松本の手が浴衣越しに腰と太股を撫でる。気づくと、その手は足の隙間からゆっくり入ってきていた。

ハラリと浴衣がめくれる。

松本の日焼けした男らしい手が、白い肌をイヤらしく撫でまわす。
その様子は、まわりの連中だけじゃなく、離れた場所にいた櫻井にも見えていたはず。



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