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その瞳にうつりたくて…

第2章 音色



次の日、今日も昨日と変わらずレッスン室で生徒達に演技指導を行っている。
泣きの演技や笑いの演技、毎日毎日同じような指導の繰り返し。
即興の芝居を用意したり、たまにはハードでミステリアスな芝居を作成したり…。
生徒達の演技を見ながらあれこれアドバイスしたり。

「あのシーンはもう少し大袈裟に泣いてもいいと思う」
「あのシーンはもう少し感情を抑えて」

全員合わせて十数名の生徒達。
この中で何人の生徒が芸能界に羽ばたき生き残れるのか。
生き残れなかった俺が指導するというのも、何とも皮肉な話だ。

そもそも、俺の話をまともに聞いてる生徒なんているんだろうか、甚だ怪しいが。

「君は泣きの演技はいいんだけど、怒りの演技がな…」

俺は指導をするときは出来るだけ大声を出して怒鳴らないことを心がけている。
生徒と同じ立場に立ち、同じ目線で出来るだけ冷静に話している。

俺は偉そうに演技を教えれる立場じゃない。
そんな実績があるわけでもない。
何もかもを諦めて、妥協してる俺に何を教えられるというのか…。
芝居一筋で来た俺に出来るのはこんな事ぐらいしか残されていない。
それはまるで、微温湯に浸り続けてるような感覚。
最初は心地いいが、やがて体温は下がっていく。
そしていつしか、肌を刺すような冷水に変化して行く。

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