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ダブル不倫

第8章 一時間早く

「にっ…………があーい」
 
「ウソ……!」
 
 里井が奈々葉のカップを手に取り一口啜った。
 
「熱っち……にっ……があ……」
 
「だ、大丈夫ですか、部長?」
 
 里井の目を見る。
 
 里井も奈々葉の目を見ている。
 
「……えっ……と……あの……」
 
 ――身体が震えて、言葉がでないよ。
 
 チュ……。
 
 薄く固いザラついた里井の唇を菜々葉の唇が捉えていた。
 
 ――ああ……。私……。
 
 舌先でその感触を確かめる。コーヒーの香りと味を感じ取った。
 
 里井の動きが止まった。大きく無表情な目を開き、やがて閉じる。
 
 ――ああ、私……。
 
 奈々葉の中の時間が止まっていた。
 
「やっぱ、空気読めねえヤツだな……宮崎、お前って……」
 
 ――えっ……?
 
「ああ、私、……ゴメンなさい」
 
 里井の冷たい両手が奈々葉の頬を引き寄せる。里井の呼吸が聞こえる。
 
 目を閉じた。
 
 唇が冷たくザラついた唇に覆われる。菜々葉は、コーヒーの匂いがする厚い胸に寄りかかる。
 
「あん……はむっ……」
 
 トロっとした生温かいモノが唇に割り入ってくる。やがて、それが苦いコーヒーの匂いと味を奈々葉に送り込み始めた。
 
 奈々葉の両方の腕が里井を筋肉質の背を引き寄せる。ネットリと柔らかい舌先が菜々葉の口腔で蠢いた。里井の舌を追う。
 
「ああ……んぐっ、んぐっ……」
 
 息苦しかった。顔を左右にしゃくりながら時折口をO《オー》の字に開き、酸素を探した。
 
 奈々葉を楽しむように蠢く里井の舌先が戯れ、唾液を行き来させる。
 泡立った唾液が菜々葉の喉元を滑るってこそばゆい。
 
 スラックスの下で膨らんだ里井を奈々葉の下腹が感じ取っていた。

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