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ダブル不倫

第11章 誘導尋問

「えっ、えっ、ウソ! お口って……フェ……!?」
 
 甲高い美希の声がホールに響く。
 
 美希の頬が一気に朱に染まる。
 
「美希っ……いい、言わなくていい」
 
 美希の口からフェラチオという単語が出てくることは予想がついた。奈々葉は慌てて手のひらで美希の口を抑える。
 
「だけど、奈々葉ってそんな積極的キャラだっけ?」
 
「だって……」
 
「まあ、弱いものね、奈々葉って……。キュンキュンとくるシチュエーション……」
 
 確かにその通りだった。夫の信也と付き合い始めたきっかけさえもそうだ。
 
「うーっす!」
 
 営業部の事務所から里井が声を掛けてきた。
 
 無表情な目が奈々葉の方に動いたような気がした。彼の顔が縦に小さく動いたあと、ふぁー、と無精髭のある口が大きく欠伸をした。
 
「顔洗ってこ」
 
 と、呟きながら、美希が給湯室に消えた。

 里井と目が合う。
 
 ――きゃあ、恥ずかしいよ。
 
 奈々葉は里井から目を逸らせる。昨夜の出来事が頭の中を巡る。胸が苦しい。
 
「ほい……」
 
 里井はスーツの上着のポケットから缶コーヒーを二本出して、奈々葉に手渡す。
 
 ――あっ……。
 
「ど、どうも……」
 
「……じゃあな」と、里井は事務所に向かう。自分の缶コーヒーの蓋を開けながら……。
 
 奈々葉も「はい……」とだけ応えて、里井から手渡れた自分の缶コーヒーを喉に流し込む。

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