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男の友情・女の立場

第10章 法廷…

自分では冷静だと思っていたいた美羽だったが、ホテルをチェックアウトして2人で軽く食事をとり、道端でキスのお別れをしたあと1人になってから、自分がファンタジー映画の中にいたことに気づいた。

卓也が待つ自分のマンションが近づくに連れて鼓動が早くなり落ち着かなくなっている。


昨日は結局健太と一晩中セックスをし、しかも自ら腰を振って何度もオーガズムに達した下半身が愛液でずぶ濡れの自分の姿が目に焼き付いてる。

美羽は法定に立つ被告人のように逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


――マンションのドアを開けると「おかえり!」と卓也の元気な声が聞こえた。

部屋に入った瞬間に鼻の奥から頭の先まで突き抜けるような匂い、見慣れたテーブルとカーテン、キッチンが目に入ると、何年も帰っていなかった実家に戻ったような不思議な感覚だった。

そして「おかえり」と言った卓也の一瞬の表情だけで、これまで心配してきたことが全て解決済みであることを美羽は察知した。

(卓也は昨日のことを詮索することもないし、健太との関係に亀裂を作ることもない。そして、私との関係も……。)

美羽は不思議と涙は出なかったが、全身にまとわりついていた重しのようなものがストンッと落ちた気がし、自然と笑顔になる。

「お腹すいた」

さっき食べたばかりの美羽だったが、本当に空腹を感じていた。

「美羽が前から行きたがってた駅前のレストラン行ってみようか?ランチの予約取るよ!」

携帯電話の方に向かって歩き出した卓也の背中に美羽は抱きつき、2人はそのまま動こうとしなかった。


〈完〉
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