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「伊東さん、藤井さんがお呼びですよ。」

後輩のメイドより声を掛けられた。
それは、よくある業務上の会話であった。

「ありがとう。藤井さんはどちらにいらっしゃるの？」

「1階の来客室で、お待ちとのことです。」

「ありがとう。じゃあ、行ってくるね。」

PC作業の手を止め、席を立つ。

藤井とは、この家の執事をしている者である。
執事は、この屋敷全般の管理だけでなく、旦那様の仕事の秘書業務も一部担っている。
立場的には雅からすると、かなりお偉い方になる。

そんなお偉い方からお呼びがかかるとは、何か大事な用件が、あるのかもしれない。

使用人の業務室を出ると、来客室に向かう。

「失礼致します。」

ノックして中に入る。

「伊東ですが、お呼びでしょうか？」

藤井に顔を覚えて貰えているか怪しいので、一応名乗る。

「わざわざ呼び出してごめんなさいね。」

と答えたのは、藤井ではなく

「メイド長もご一緒なのですね。」

「そうよ、私と藤井さんが伊東さんを呼んだの。」

上品な微笑みを浮かべて答えるのは、メイド長の三崎（年齢不詳）である。

年齢不詳というのは、実年齢は誰もわからないが、とにかく全く見た目が変わらないので、年齢不詳ということになっている。

とにかく推定年齢より大分若く見えるといる褒め言葉である。

藤井はソファに腰掛け片手に書類を持っている。その側にメイド長の三崎が控えていた。

「伊東さんですね。あまり一緒にお仕事する機会はありませんでしたが、いつも細かいところまで心配りのできる方だなと尊敬しておりました。」

と言うのは、きりりと締まった顔をした藤井だ。
髪はきっちりとセットされ、執事専用の黒いスーツを着用している。30代半ばであろうか。その年齢でこの役職を任されているのであれば、中々優秀なのであろう。
と上から目線で観察する。