森の中
第1章 1 ハイキングコース
乾いた風が吹き、紅葉を落とす。
瑠実は落ちてくる紅葉を手の平に受け取って上を見上げた。昼過ぎだが鬱蒼と茂る森の中は薄暗く、風は渇いているのに止むと湿り気を感じる。日ごろ乾燥したスーパーの屋内で接客業を行う彼女にとって、森の中はしっとりとして静かで身も心も休まる場所だ。
高さ三十センチほどのちょうど腰かけるのに程よい切株を見つけて座る。ほっと一息つき気が付くと辺りは切株だらけだった。(座るまで気が付かなかった。伐採中なのかなあ)
この森は市内のおすすめハイキングコースに入っているはずで伐採の予定はなかったはずだ。少し、あれ?っと思ったが気にせずに森林浴をしていると、突然後ろから
「君。何してるの?ここは私有地だよ」
と、声を掛けられた。
ドキッとして振り向くと、アイボリーの作業服を着た四十代前半ぐらいの男が立っていた。
「え。あ、あの。ここハイキングコースじゃないんでしょうか」
立ち上がって瑠実はビクビクしながら男に訊ねた。
「ん?ハイキング?」
「はい。下の公園からこの地図の通りに来たんですけど」
瑠実は折りたたまれた地図を広げて男に差し出した。
「どれどれ」
男は四角い銀縁の眼鏡を微調整しながら地図を眺めた。
「どこから出発したの?今ここだけど」
紙の上を這う男の指先を見ていると今の位置は目的地の森と四十五度ほどズレている。
「えっ。そんなあ。ここだと思ったんです……」
泣きそうな顔で言う瑠実に男は、短く刈られた爪をつんっと立てるように一点を差し
「きっとここの分岐で間違えたんだな」
と、静かだが厳しい口調で言った。
男の他人を寄せ付けない威圧的な態度に瑠実は緊張し、なんとか声を振り絞り
「勝手に入ったりしてすみませんでした」
と、頭を下げながら言い後ずさりした。
瑠実は落ちてくる紅葉を手の平に受け取って上を見上げた。昼過ぎだが鬱蒼と茂る森の中は薄暗く、風は渇いているのに止むと湿り気を感じる。日ごろ乾燥したスーパーの屋内で接客業を行う彼女にとって、森の中はしっとりとして静かで身も心も休まる場所だ。
高さ三十センチほどのちょうど腰かけるのに程よい切株を見つけて座る。ほっと一息つき気が付くと辺りは切株だらけだった。(座るまで気が付かなかった。伐採中なのかなあ)
この森は市内のおすすめハイキングコースに入っているはずで伐採の予定はなかったはずだ。少し、あれ?っと思ったが気にせずに森林浴をしていると、突然後ろから
「君。何してるの?ここは私有地だよ」
と、声を掛けられた。
ドキッとして振り向くと、アイボリーの作業服を着た四十代前半ぐらいの男が立っていた。
「え。あ、あの。ここハイキングコースじゃないんでしょうか」
立ち上がって瑠実はビクビクしながら男に訊ねた。
「ん?ハイキング?」
「はい。下の公園からこの地図の通りに来たんですけど」
瑠実は折りたたまれた地図を広げて男に差し出した。
「どれどれ」
男は四角い銀縁の眼鏡を微調整しながら地図を眺めた。
「どこから出発したの?今ここだけど」
紙の上を這う男の指先を見ていると今の位置は目的地の森と四十五度ほどズレている。
「えっ。そんなあ。ここだと思ったんです……」
泣きそうな顔で言う瑠実に男は、短く刈られた爪をつんっと立てるように一点を差し
「きっとここの分岐で間違えたんだな」
と、静かだが厳しい口調で言った。
男の他人を寄せ付けない威圧的な態度に瑠実は緊張し、なんとか声を振り絞り
「勝手に入ったりしてすみませんでした」
と、頭を下げながら言い後ずさりした。