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森の中

第9章 9 決別

 しばらく冬樹の胸の上で静かに過ごし、瑠美は身体を起こそうとした。冬樹が腰に手を回し

「もう、急いで帰らなくてもいいだろう」と、言った。

 瑠美は乱れた髪の毛を撫でつけながら
「ええ」と、答える。

 冬樹も身体を起こし瑠美の後ろから肩を抱きもたれ掛けさせた。触れ合う肌が心地よい。

「寒い?」
「いえ。ちょうどいいです」
「そうか。でもストーブが消えてしまったな。薪を足しておこう」

 全裸で立ち上がった冬樹の後姿を見て瑠美は赤面し、下を向いた。
(なんて逞しいのかしら)
林業は肉体労働が主なため体力を使うがおかげで肉体に無駄なものはなかった。
 この体形を維持しようと思ったらジムにでも通わないとならないだろう。瑠美は今まであの身体に抱かれていたのかと思うと今更ながらに興奮してしまった。

 着替えている姿をぼんやり見ながら瑠美も下着を探して身に着けた。冬樹が紙くずと薪を用意して火をつけた。
 パチパチと小気味いい音がして少しだけ木の燃える香りが漂う。冬樹が瑠美の横に座り、優しく頬に口づけた。恋人同士のような行為に瑠美は嬉しくて頬を染める。

 冷蔵庫から軽く冷えたペットボトルの水を持ってきて瑠美に渡してくれる。礼を言って一口飲むと身体の内側がシャキッとして頭もはっきりし始めた。

「お母さんはどうするの?」

 冬樹が遺骨について尋ねてきた。

「うちはお墓がなくて、母も望んでないんです。希望ではどこか見晴らしのいい山に散骨してほしいと」

 もう一口水を飲んで続けた。

「父と母は入籍できなかったんです。結婚には母方が反対していたらしくて。それでも私を妊娠してこれからというときに……」
「そうか。散骨する場所は決まったの?」
「いえ。まだです」

 首を横に振る瑠美に冬樹は
「僕の山にまけばいいよ」と、言う。

「え、あ、いえ。そんな迷惑な。急がないので探します」
「迷惑じゃないよ。手を付ける予定のない雑木林があるから。そこから町全体も海も見渡せるんだよ」
「そんな素敵なところが……」
「身体が平気なら今から行ってみようか。」

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