森の中
第10章 10 面影
冬樹の指先を思い出す。確かに父に似ている。母は冬樹の手に聡志を見たのだろうか。
瑠美は自分がこんなに細かく冬樹のことを思い出せることが不思議だった。数年生活を共にした夫のことですら大まかな顔つきしか思い出せない。
彼の柔らかく少しだけ癖のある髪、鎖骨の上にあるほくろ、蜜ろうのような香りがする体臭、そして透明感がある低い声。
態度は素っ気ないのに身体を這う指先は優しく、冷たい言葉を吐く唇は甘く。思い出すと身体の芯が熱くなってくる。
抱きしめられた感覚を思い出して瑠美はゴクリと息をのみ、お茶を淹れに台所に立った。
君枝の日記をパラパラめくる。彼女は何か出来事があるとメモを残すように日付と一行文を書き連ねていた。日記帳はただの学習用のノートで一冊のみだ。聡志との出会いからぽつぽつと現在まで書かれている。
感情的なことは書かれておらず、『妊娠した』とか『瑠美が結婚』など年表のようだった。最後のほうになると『お腹が痛い』『検査する』など病気に対することが書かれており見るのが辛くなった。残り数行のところで『瑠美に恋人ができた』と書かれており目がとまる。
(お母さんたら……)
偶然、冬樹が病院に居て母を見舞った日の日記のようだ。
ゆっくり目を落としていく。『瑠美がきれいになった』『瑠美が明るくなった』『瑠美が可愛くなった』『もう心配ない』それで日記は終わっていた。
瑠美は自分がこんなに細かく冬樹のことを思い出せることが不思議だった。数年生活を共にした夫のことですら大まかな顔つきしか思い出せない。
彼の柔らかく少しだけ癖のある髪、鎖骨の上にあるほくろ、蜜ろうのような香りがする体臭、そして透明感がある低い声。
態度は素っ気ないのに身体を這う指先は優しく、冷たい言葉を吐く唇は甘く。思い出すと身体の芯が熱くなってくる。
抱きしめられた感覚を思い出して瑠美はゴクリと息をのみ、お茶を淹れに台所に立った。
君枝の日記をパラパラめくる。彼女は何か出来事があるとメモを残すように日付と一行文を書き連ねていた。日記帳はただの学習用のノートで一冊のみだ。聡志との出会いからぽつぽつと現在まで書かれている。
感情的なことは書かれておらず、『妊娠した』とか『瑠美が結婚』など年表のようだった。最後のほうになると『お腹が痛い』『検査する』など病気に対することが書かれており見るのが辛くなった。残り数行のところで『瑠美に恋人ができた』と書かれており目がとまる。
(お母さんたら……)
偶然、冬樹が病院に居て母を見舞った日の日記のようだ。
ゆっくり目を落としていく。『瑠美がきれいになった』『瑠美が明るくなった』『瑠美が可愛くなった』『もう心配ない』それで日記は終わっていた。