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Melty Life

第5章 本音




 ただでさえ愛娘の主張を虚言だと疑われて憤慨していた両親は、無邪気に唇を歪めた咲穂の提案を聞いた途端、目つきを変えた。


 咲穂の要求を飲んだところで望みなどないと、分かっていた。今更、水和との間に何もなかったのだと訂正すれば、咲穂の立場が危うくなる。
 前言撤回などさせられないと分かっていたのに、僅かな可能性も切り捨てるには、あかりは水和を愛しすぎていた。


「水和先輩のためって思うと、その時は、痛くなんてなくて……気づいたらこんなことに。炙った剃刀二枚重ねて、切られまくっちゃいました」

「騙されてるって分かってたなら──…」

「あたしが逃げても逃げなくても、水和先輩はとっくに苦しみ続けてるんです。助けられるかもって、一瞬でも、信じたかったのに」

「宮瀬さん、将来、ろくでもない人とは恋愛しないようになさいね。とことん利用されるから」

「恋愛、か。そんな予定ないので心配いりません」


 今までもこれから先も、水和の他に誰かを好きになることなどない。


 今朝は自分で届く範囲で塗った薬が効いていた。徐々に裂傷と火傷が疼いてきて、吐き気が襲って授業を離れた。


 カーテンの向こうに生徒の気配を感じたのは、授業に戻るかもう少し休むか、あかりが思案を始めた頃だ。

 保健医しかいないとばかり思っていた。

 しかし少女の微かな声が、間違いなく布の隙間をこぼれてきたのだ。聞き覚えのある、雨に怯える小動物が啜り泣くのを彷彿とする声。


「先生、そこ……」

「ああ、ごめんなさい。寝不足の子を休ませていてね、今のは聞こえていなかったはずだと思うのだけど……平気よ、良い子だから。いつ起きたのかしら」

「…………」

「侑目沢さん、起きたの?」


 カーテンを開いた保健医の呼びかけた声に、度肝を抜かれた。

 侑目沢という苗字は珍しい。

 保健医の言う通り、カーテンの向こうで眠っていたはずの生徒は、本当に「良い子」と称するべき一年生。知香はいつから話を聞いていたのか。とても寝不足でここに来たとは思えないほど泣き濡らしていた。

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