
Melty Life
第5章 本音
明確な理由も示さず授業をサボろうとする生徒達に保健医が目を瞑ってくれたお陰で、あかりは知香と場所を移した。
意図せず足を止めたのは、一年生の校舎裏。あかりが初めて知香を見かけた、見事な桜の木が聳える一角だ。
二ヶ月前は華やかな香りを振り撒いて、薄紅色を着込んでいた樹木は、瑞々しい新緑を茂らせて、梅雨入り前のぼけた日差しを透かしている。
「ほんと、あかり先輩、綺麗すぎです。それでほとんどノーメイクなんて、嫌味みたい」
「化粧っ気ないのは、知香ちゃんも同じでしょ。褒めてくれても有り難うしか出ないよ」
「何も出ないより、良いです。本当、もし同級生だったら授業中、あかり先輩ばかり見ていたと思います」
知香があかりの容姿を買い被るのは、茶飯事だ。それにしても今日は気合いが入っている。センチメンタルにでもなったのか。
「今まで有り難うございました。どんな言葉も足りないくらい、お世話になりました」
「どうしたの?……もしかして急に学校辞めないよね?またいじめられたんだったら、……」
「あのっ、そうじゃなくて」
見てたんです、と、せっかく落ち着いた涙がまたこぼれ出しそうな顔を伏せて、知香が続けた。
消え入りそうに弱々しい声だ。事実、存在ごと消えてしまいたがっている感じの知香の様子に、あかりは心当たりがあった。
あまりに優しく傷つきやすい下級生になら、きっと何を打ち明けられても驚かない。
