テキストサイズ

Melty Life

第2章 初デート




 心なしか芳しい感じの教室は、来須に呼び出されたらしい女子生徒らが行儀良く列をなしていた。彼女らに小さな包みを握らせていく御曹司と目が合いかけて、あかりはとっさに背を向ける。もっとも、他の生徒に呼び出してもらった水和の登場によって、結局、彼にも見つかった。

 あかりも人のことは言えないにしても、水和との貴重なひとときの傍らで、どこが良いのかと疑問しかいだけない男が、鈴なりになった少女達と二言三言を交わしている。時折上がる、きゃぁっ、と、黄色い歓声が癪だ。


「わざわざ有り難う。ビックリしたぁ、あんな小さいチョコレートで、ホワイトデーは予想外だった。デートの件も待たせちゃってて、ごめんね」

「いいえ。手作りチョコ、美味しくて死ぬかと思いました」

「大袈裟だわ。それより混み合ってるでしょ、入る?」

「大丈夫です。それにもう先生来るし。花崎先輩のお顔を見られただけで、満足です」


 コスメショップの紙袋の持ち手をみぞおちの前で握る水和の手に、自分の手のひらを重ねた。

 ぞくっとするほど、なめらかな肌だ。男の軽々しいスキンシップは、下手すれば気味悪がられるものだが、あかりにそうした懸念はない。ざまあみろ、来須。

 ただし、意識して心臓が余計に危うくなった。


「LINEのアカウント、書いて入れておきました。捨ててもらっても大丈夫ですけど、春休みこそデートしたいから、良かったら連絡下さい」


 水和の表情は、気のせいか固くなっていた。目の奥に、とろけるようなたゆたいの色。


 別れ際、彼女の人形めいた顔は、くしゃっと少女らしく綻んだ。その笑顔が、数秒は、立ち去る自分の背を見送ってくれているのだと信じて、あかりは胸の中に苺ミルクが注がれて、小さな波を立てているようなくすぐったさに浮かれながら、振り返らないで元いた校舎に戻っていった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ