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Melty Life

第2章 初デート


「第三幕の、主人公が第一志望校の受験に落ちて、母親と喧嘩するシーン。もうあんたの人生終わりよ、っていうくだりが、ちょっと過激かな……と思いました」

「あー、言われてみたら」

「確かにこのあと和解するから、問題ないかも知れませんけど。新入生の中には、受験で苦労してきた子もいるでしょうし、デリケートなところだと思います。別の言葉に差し替えられませんか」

「分かりました。ここは母娘が喧嘩すれば何でも良かったし、もう少しやんわりした言葉に直しますね」

「有り難うございます。ごめんなさい」


 
 千里は、衣川に心から感謝した。バレンタインデーの放課後は、彼女の面食いが災いしてさんざんな目に遭ったものだが(衣川は宮瀬の色仕掛けに騙されて、緊急避難訓練を実施した前科を持つ)根本、彼女はよく仕事をこなしてくれる。今も千里がつい過去の回想に耽っていた間、彼女は生徒会役員として、真面目に舞台を観てくれていた。お陰で千里は、自分の乏しい記憶を絞り出して何か言わなければいけない義務を、免れた。

 千里と同級の演劇部部長達が問題のシーンを書き直す作業を始めた時、つと、水和の隣を離れた笹川百伊が近づいてきた。

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