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Melty Life

第3章 春




「買ってきたよ」


 新入生歓迎会の全てのステージ発表を観終えると、知香は例のごとく宮瀬咲穂率いる高級フルーツのようなグループの言いつけ通りの買い出しをして、二番手の権力を誇る沼津ありさにエコバッグを広げて見せた。
 常備している薄手のバックは、幼い頃、何かのおまけにもらったものだ。我ながら保存状態には感心するピンク色のそれに、弁当や飲み物がごちゃごちゃ入っている。


「侑目沢(ゆめざわ)、いつまでそれ使ってんの?ダサいんだけど」

「えっ、こいつこればかり持ってるじゃない。ちゃんと洗ってる?ありさぁ、こういうブスに私達の昼ご飯用意させるのは、衛生上良くないよ」

「咲穂は良いよねぇ、毎日愛情弁当で。……ったく、仕方ないからもらってあげるよ」

「サンキュー、ダサ子。あ、ついでにそこで何か踊って?今日ウチら入学式の打ち上げ行くんだけど、余興がないんだよね。音楽流すから」

「え……私、踊りは……」


 畳んだエコバッグを両手に握って、クラスメイトの一人が向けてくるスマートフォンから顔を逸らせる。

 そう言えば咲穂はどこにいるのだろう。
 中学一年生だった頃から、彼女らは度々、知香に昼ご飯を買ってくるよう言いつけては、その代金を返却した試しがない。中心核の咲穂だけは、母親が弁当作りを欠かさないらしい。彼女は昼休みの巻き上げに参加出来ない境遇を日々嘆いていたものだが、今日はその姿がない。

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