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数珠つなぎ

第9章 俺たちは歩いていく









「おはよう。父ちゃん、母ちゃん、兄貴」

喫茶店の端にあるテーブルの前に立つ。

「おはようございます」

朝が弱い潤も今日は早く起きてくれた。

「おはよ。雅紀、潤」

いつもは寝ている時間なのに和也も起きてくれた。

「おはよぉ」

制作を中断して智も来てくれた。



今日は3人の命日。



「これ……食べてね。きっと母ちゃんが作るより美味いからね」

テーブルに作った中華粥を置いた。

「ホント、美味しいですから」

潤が自慢する様に話しかける。


「一口だけなら……食っていいからな」

俺の言葉にみんなが笑った。


見つめる先にはセロハンテープで繋げた写真。


その中で笑っている人達。


父ちゃん、母ちゃん、兄貴……



そして櫻井。




俺たちは櫻井がいたから繋がったんだ。


それは決していい意味ではないけど……


でも櫻井がいたから今、潤と一緒に人生を歩んでいる。

智と和也と出会うことが出来た。



それだけは、仕方ないから認めてやるよ。



「よし、みんなで食べよ」




俺たちは笑顔で歩いていく。



父ちゃん、母ちゃん、兄貴、そして櫻井が歩けなかった



明るい未来に向かって……















「良かったな」

昌宏さんが優しく髪を撫でてくれた。

「うん」

見下ろす先には笑顔でお粥を食べる4人の姿がある。


ありがとう。


こんな俺を許してくれて……

そしてこんな俺の存在を忘れないでくれて……


「そろそろ、行こう」

ギュッと俺の手を握りしめてくれた。

「ずっと、一緒にいてくれる?」

「あぁ、ずっと一緒にいるよ」

ニッコリと笑うと顔が近づいてきて、昌宏さんの温かい唇が俺のそれに重なった。



願う資格はないけど願ってる。



雅紀と潤、

そして智と和也の幸せを……



唇が離れると俺たちを包むように、小さな温かい光に包まれた。


【end】

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