数珠つなぎ
第3章 あんたを許さない
コンコン…
「どーぞ」
いつもの様に軽い口調で俺を招き入れる。
「派手にやられたね」
部屋にはお札が散乱している。
「そう?殴られるくらいの覚悟はしてたけど、智くんは本当に優しい人だよ」
なんて言いながらクスクス笑ってやがる。
大切な人を想う気持ちを弄びやがって。
「何か言いたげだね?」
俺を見る視線が少し鋭くなる。
しまった……怒りに怠けて油断した。
「ふふっ……よくわかったね?」
でもそれをサラリとかわすもの慣れたもの。
目の前に落ちていたお札を拾うと、同じようにしゃがみ込んでお金を拾うオーナの前に俺もしゃがみ込んだ。
「殴る価値もないんじゃない?」
拾ったお札を束ね、オーナーの頬にペチペチと当てた。
「お札になら、殴られてもいいかな?」
パッと俺が持っていたお札を奪った。
長くあんたと付き合ったら、多少の事は誤魔化せるようになった。
それにこのキャラづくりのお陰で、さっきみたいに思ってた事をハッキリ言ったって問題はない。
お前なんか殴る価値はない。
殴って傷つく拳の方が可哀想だよ。
だからそんなこと、智にはさせない。
お前を殴るのは俺だ。
「二宮……上手く引き入れたみたいだね?」
「もしかして盗み聞き?」
お札を拾い終え、デスクに座ってパチパチと音を鳴らしながら数える。
「さぁね?」
ちげーよ、盗聴してんだよ。
まぁ、盗み聞きには違いないか。
俺が仕事してる間の会話も一語一句、聞き漏らしはしない。
ここで働き始めてからずーっと、あんたの為に時間を費やしてきたんだ。
「まぁ、どーでもいっか。いずれみんなにも知れ渡る事だし……」
デスクの前に立つ俺に不敵な笑みを浮かべる。
「仕事が早いね」
「早くないよ?寧ろ遅いくらい。誰かのせいで100万は損してるんだから」
数え終わった札束で俺の頬を叩いた。