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ぼっち─選択はあなたに─

第15章 バトルトーナメント【4回戦】

 ミトナツコはリングの端にいた。
 そしてなにやらガスコンロと鍋を用意して、料理を作っていた。

「この香りはっ……」

『おおっとおーー!! やっと霧が晴れ、選手たちの姿が見えてきました!! …んんん!? ミト選手、何かを作っている!? この美味しそうな匂いはもしかしてっ……』

「唐揚げだべ!」

 メキユは芳ばしい香りに誘われて、ミトナツコに向かって歩き出した。

 これは罠だ。罠に決まっている。
 そう思うのに、歩みを止めることができない。

 大丈夫。いざとなったらこの包丁で──。

『ま゜』

 ミトナツコが紙皿に乗せた唐揚げを目の前に差し出してきた。それは父親が揚げてくれた唐揚げに似ていて、すごく美味しそうだった。

 メキユはためらったが、ひとつだけ口に含んだ。

「!」

 衣はカリッと、肉は柔らかく、噛むと肉汁が溢れてくる。

 メキユはあまりの美味しさに涙を流した。

「父ちゃんっ……父ちゃんの作ってくれた唐揚げと一緒だべ……!」

 涙が包丁に滴り落ちると、包丁がカッと光った。

『の゛り゛ま゜き!』

 危ない!と叫びながら、ミトナツコがメキユの包丁に手を伸ばす。
 しかし包丁はビュンッと飛んで暴れだした。


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