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ぼっち─選択はあなたに─

第26章 黒い犬【選択8】

 魔女の声が頭の中に響く──ソルトの町から離れるなと。

「リュージンに謝らなきゃ……」

 もう少し、あの優しさに甘えたかった。
 でも仕方がない、自分では行動を決められないのだから──いや、本当にそうなんだろうか? 自分は本当に自分の意思で動けないんだろうか。

「あの夢……」

 なんだか胸騒ぎがする。
 ただの夢ならいいのだけれど、気になる。
 
 ヒカルはベッドから降りると、まだ薄暗い外の様子を窓から見下ろした。町の明かりはポツポツと見えるが、霧が立ち込めているせいかはっきりと見えない。
 
 遠くで犬の鳴き声がする。
 激しく吠えているみたいだが、何かあったのだろうか?

 炎が移動しているのがわかる。
 きっと松明を持った討伐隊員かラザニーア王国の兵士たちが巡回しているのだろう。

(クロード……バット……)

 ヒカルはクロードと初めて出会った時のことを思い出した。あの時クロードが助けてくれなければ、自分はシャドーに食べられていた。
 それにバットから町においでと声をかけられなければ、自分はモンブラン城で死んでいたかもしれない。
 彼らが命がけで守ってくれたから、自分はここにいる。

(だから私はこの町を守らなきゃ……。自分に何ができるのかわからないけれど……)

 ヒカルはそう強く思いながら、もう一度目を閉じた。


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