
身体を重ねても、想いはズレたまま
第8章 第8章 想いはズレる
私はマンションの自動ドアに入ろうとする彼女の横から声をかけた。
「レナ、やっと会えた」
「なんで、いるの?」
彼女は、目を丸くして一瞥すると、すぐに眉根に皺を寄せて
「話すことなんかないから」
と呟くように言うと、自動ドアの方に入っていこうとする。
「結婚しよう」
咄嗟に出た言葉がこれだった。
一瞬、彼女は立ち止まる気配を見せたが、私の言葉を無視して奥のエレベーターに消えていった。
追いかけることができずに呆然と見送る私。
いま思うと、火に油を注ぐような対応だったのだろう。
