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ダブル不倫 〜騙し、騙され

第1章 1

 山瀬優子は夫である修一のスーツの胸ポケットに入れておいたペン型ボイスレコーダーを再生していた。
 
 子供のはしゃぐ声とともにペタペタと不安定に掛けてゆく足音が遠ざかってゆく。
 
「気をつけて帰れよ」と、修一の声。
 
「はーい、バイバイ、先生っ」
 
 小さな女子児童の声が、また遠ざかる。
 
 優子の顔がほころんだ。
 
 夫の修一は公立小学校の教師で三年二組の担任をしている。今は、主婦業の優子も出産するまでは、公立小学校の教師をしていた。
 
 レコーダーの音が静かになった。ガラガラと扉がゆっくり開く音がした。その音は、ガラガラという速いものではない。どちらかと言えばガラ、……ガラ、……ガラ、という音を気にしながら開ける音だ。
 
 優子が夫のポケットにボイスレコーダーを忍ばせたのは、元同僚からの情報。夫のポケットにレコーダーを忍ばせるのは、見てはいけないものを覗き見るようで心苦しかったのだが、優子は事実が知りたかった。
 
「……全校児童、帰宅しました」
 
「ああ、お疲れ様でした。山瀬先生……」
 
 と、若い女性の声がしたあと、ガサガサと布が擦れ合う音。にちゃ、くちゃっと、湿り気のある音が時々聞こえる。
 
 ――にちゃって、キス……してるの?
 
「んん……。加古川先生……、もう……異動されてから……」
 
 加古川先生というのは、加古川アカネ――半年前に異動してきた二十七歳の女性教師だ。

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