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ダブル不倫 〜騙し、騙され

第1章 1

「ハイ、半年……んっ……ス、スーツシワになっちゃう」
 
 また、にちゃ、ちゅぱっ、という音、のあとガサガサと音が遠ざかる。
 
「…………今日は……?」
 
「昨夜、アレが始まっちゃって……。ごめんなさい……」
 
「いいよ。加古川先生が悪いんじゃないから……」
 
「二人のときは、アカネって呼んで……。山瀬先生、ねえ、座って……」
 
 ギイッという音がして、チィと、小さな音が聞こえた。
 
「ああ、アカネっ……」
 
「……修一さん……んん……」
 
 ピチャピチャという小猫がミルクを啜るような小さな音の中に、んっんっ、という男の声が混ざる。
 
 ――お口でヤッてるの。
 
 胃の底から何かが上がって来るような気がして、優子はレコーダーを止めた。
 
 コツ、コツと革靴の踵が地面を蹴る音がして、ピンポンとインターホンの呼び出し音が鳴った。修一の足音だ。この音を何年も聞いてきた優子にはすぐに分かった。
 
 解錠のボタンを押す。いつもは優子が玄関ドアを開けに出ていた。
 
 ――何か、気づくかしら……。
 
 エアコンで温められた空気に冷たい空気が混ざる。
 
「おかえりなさい」
 
 心なしか頬が赤く見えた。修一の目を見た。夫の目がすっと放れる。
 
「ああ、ただいま……。ああ、ちょっと風呂、入ってもいいかな?」
 
 ――いつも「腹減ったー」って言うくせに、風呂に入って女の匂いを消すつもりだろ!
 
 確かに、いつもはカラスの行水と言われるほど、数分で風呂を出る修一だが、その日は四十分近く経って浴室を出た。

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