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　０▽屋上
　
　ガシャ……。
　
　二十三歳の女優、スティファニー・アリソンは、所属しているホーリーアクターのオフィスビルの屋上にいた。その柔らかな手のひらに転落防止用フェンスの針金が食い込んでいる。湿気を含んだ強い南風がマロン地のワンピースの裾を音を立てて靡いていた。少し前まで見えていた満月は分厚い雲に隠されている。足元には彼女が胸を張って歩いていたニューヨークシティの夜景が広がっていた。
　
　――何だかジオラマみたい。
　
　スティファニーは大きく息を吸い込んだ。
　
　ガシャ、ガシャ……。
　
　スティファニーは更にフェンスに登った。
　
　――とても静か……。
　
　既に彼女の身長より高い場所まで上がっていた。強い南風にワンピースの裾が煽られていた。このワンピースは三年前の〈ビジネスの話〉の時に着ていた物だ。蒸し暑い風を吸い込んだマキシ丈の裾がパラシュートの様に太ももまで捲くれ上がる。
　
　――ドレスの裾が捲れても髪が乱れても、もう気にしなくてもいい。
　
　南風が絹糸の様なスティファニーの長い髪を靡かせていた。