不埒に淫らで背徳な恋
第6章 【守るべきものがある人生は幸福ですか?】
「大好きだー!」
クリーンヒットだった球が最後は弧を描いて小さなホームランパネルに吸い込まれるように当たった。
宣言通り決めたからお互いびっくりして手を叩きながら喜び合ってしまう。
しまった………
ということはもうひとつの我儘を聞いてあげなきゃならない。
「次はチーフですよ」
「私が取ったらその我儘聞かなくてもいいの?」
「それはナシです」
だよね……とりあえず取るしかない。
意を決してバッターボックスに入る。
ちょっとフラフラしてたけど段々と醒めてきてる。
ううん、本当は佐野くんだって酔ってるフリしてるんでしょ?
それ、最後まで私を騙し通してね…?
1球目からヒットを飛ばす私は可愛げのない女。
いきなりホームランなんてなかなか難しいけど感覚は鈍っていない。
私が出せば……佐野くんは潔く別れを受け入れて諦めると言ってくれた。
もし出せなければ……私を諦めないのかな?
諦めないと叫んでた。
それにもうひとつの我儘って…?
今、私の脳裏に浮かんでいることがもしも当たっているなら言わせてはならないし実現しちゃダメ。
冷静になって…?
これは確実に独り立ちさせる為の賭けなの。
私が勝って諦めさせてサヨナラしなきゃ。
自分から言ったんだから。
ヤバい………視界がぼやけてる。
バッターボックスに立ちながら頬に涙が伝ってる。
絶対に後ろ振り向けない。
ラスト1球。
まだホームランは打ててない。
打てる…?打てない…?
最後は思いっきりバットに当てた。
弧は描いたけど、ホームランには届かなかった。
そそくさと濡れた頬を拭い悔しがる。
握ってた手がジンジンして痛い。
全部当てたけどホームランじゃなきゃ意味ないよね。
「やった、諦めないでいいってことですよね?」
目尻にシワ寄せて嬉しそうに笑う。
「ごめん、帰る」
不貞腐れたフリして距離を置こう。
「待って…!僕のホームランは!?我儘聞いてくれるんですよね!?」
腕を掴まれ反転した身体はキミに向いたまま行き場を失っている。
見つめ合う先に何が待ってるって言うの…?
期待しちゃいけないし、させてもいけない。