不埒に淫らで背徳な恋
第1章 【心の歪み、気付いてる?】
まだ生でしたことないのに何が不妊治療よ。
そっか、私がまだいらないって言ってるの話してくれてないから単なる出来にくい身体だって思われてんだ。
自分の時と重ねて見られてるんだね。
きっとお義母さんは私にこの話をずっとしたかったんだろう。
なかなか煮えきらない息子に代わって。
正直、こんな形で知りたくはなかったけど。
帰り際、今度は稜ちゃんに向かって
「夫婦なんだから瑠香さんのことちゃんと支えるのよ?」なんて言ってる。
どんな境遇であっても自然と笑顔は作れるものだ。
長年営業で培ってきた変な特技。
最後まで普通に振る舞えたと思う。
車に乗り込むまでは。
「瑠香……何かごめんな?母さんはああ言ってたけど俺は本当、瑠香の気持ちを尊重するしちゃんとわかってるから」
窓の外を見つめながら返事もしない。
話す気力もなかった。
「怒ってる…よな?」
不穏な沈黙。
静かな空間でシートベルトを装着する音が聞こえた。
「ごめん…こういうのは」
「出して」
「え…?あ、うん…」
言い訳とか聞きたくない。
言ってなかった。
ただその事実だけ。
一言も話さず家に帰ってそのまま寝た。
歯車が狂い出したのはきっとこの日から。
別に責め立てることでもないし
誰が悪いわけでもない。
始めからボタン掛け違えてたのかも。
何かどうでもよくなる瞬間ってあまりにも呆気なく訪れるんだね。
「行ってきます」
早めの出勤日、玄関先まで稜ちゃんを見送る。
いつものハグもない。
顔が近付いてキスされそうになった。
咄嗟に避けた身体が全てを物語っている。
傷付いた顔しないでよ。
「今日、一緒に帰れる?」
「え…?」
こんな状態なのに待ち合わせするの?
気が重い……
「待ってる……来るまで待ってるから」
そういうとこだよね。
こっちは待たせてる身だから済ませておきたい仕事も翌日に回したり時間調整しなきゃならない。
1日の最後が憂鬱でたまらないのにこっちが身を削ることになる。