不埒に淫らで背徳な恋
第8章 【本能のまま乱れ咲くのは愛と呼べるでしょうか?】
「あ、でも新しい恋しようと思った時は真っ先に声かけてくださいね?キープ組から繰り上げしてください」
「キープ組って……アハハ!」
思わず声を出して笑ってしまった。
何人か気付いてこっちを見るくらい聞こえてしまってる。
あるわけないでしょ…と小さく文句の一つでも言いながら切り上げる。
こんなふうに気兼ねせずまた同じ空気に戻してくれる月島くんに感謝して、つくづく自分は周りに恵まれてるんだなと痛感した。
「恩返ししてくれるならまず幸せになってくださいね」と憎まれ口も叩くようになっちゃって。
一枚上手だな、こりゃ。
月末になると締め切りで何かと忙しい。
時々部長から頼まれる雑用をこなしながら事務作業全般を見なければならないこの時期。
残業なんて1ミリもしなくない、させない…が顔に出る。
そんな空気を簡単に壊す要注意人物が居ることを久しぶりの登場で一瞬忘れていた。
「瑠香ちゃ〜ん」とフロアに入って来た人。
ザワザワしていた社内でも皆が顔を向けるほどの圧倒的存在感を示してる。
光沢のあるオーダーメイドスーツに身を包み、いつもなら茶髪でゆるふわパーマだったのに短くカットしてセットしてある、いわゆる正装だ。
「えっ!?小山社長…!!」
そう言って月島くんと同時に立ち上がった。
かなりイメチェンして現れたのはホワイトデザインの小山社長。
うちと業務提携しているファッション雑貨の4代目社長で私が以前担当していた。
新人育成も兼ねて佐野くんに引き継いで、今現在は月島くんが担当者だ。
「今日は瑠香ちゃんに用事があって」
そういうことなので私一人で対応する。
「お久しぶりです、お元気そうで」
「相変わらず忙しそうだね?30分…いや、20分でいいから今から時間取れない?」
いつものゴリ押しですね、承知しています。
いつ何時こんなことが起きても良いように2つ3つと作業は先回りしてますよ。
ニッコリ笑って快諾した。
「いや、此処じゃなくて……下で珈琲飲みながらでも」
いつになく余所余所しい態度なのがぎこち無い。
頭に「?」だらけだけどコートを手に取り出て行く旨を伝える。