不埒に淫らで背徳な恋
第11章 【最終章 背徳没倫〜人の道から外れ、道徳に反する〜】
「やっぱり気分悪そうだな?疲れが溜まってるんだろ、残業続きだったしな」
どこまでも優しい対応な春樹さんの冷たい目が想像出来る。
「仕事終わったら、また会える?」
次を左折したらマンションに辿り着く。
ここでちゃんと断りを入れよう。
「勿論、そのつもりだよ」
ゆっくり速度を落としエントランス前に停車した。
「疲れたから言われた通り少し寝るね?その後会ったら…大事な話があるの」
シートベルトを外してドアに手をかけたら離してくれない手が車内に引き戻す。
いつもなら別れ際に必ずキスしてた。
それを拒もうとする私の先に出た行動が気に食わなかったのか、強引に抱き寄せられた腕が怖くなった。
「何思いつめてるのかわかんないけど」
頭上で声が少し震えてる。
身体が離れて目が合った。
目が赤いのに気付く。
え……泣きそう。
春樹さんが泣くのなんて想像出来ない。
逃げられないように顎クイされた私はそのまま吸い寄せられるようにキスされた。
触れるだけのキス。
すぐに離れた唇は最後にこう告げた。
「別れ話じゃなければ行くよ」
潤んだ瞳はとても悲しげに揺れた。
最後まで優しい笑顔。
髪を撫でられ前を向いた。
無言の合図だった。
荷物を持ち外へ出たらそっとドアを閉める。
運転席から何度も手を振り名残惜しく離れるいつもの光景が今日はひとつもない。
初めて、降りた私を一度も見ずに車は走り出した。
私は何もわかってない……春樹さんのこと。
ちゃんと見てたはずなのにどこかフィルター越しだった。
別れ話……ってわかってるじゃん。
じゃあ来ないのかな。
何も言えなかった。
自分がどんな顔したのかもわかんない。
帰ってすぐシャワーを浴びて仮眠しようとしたらテーブルの上に置いてあった婚約指輪が目に入る。
パカッと開けたら綺麗に輝いているリングに思わず泣きそうになった。
出張行く前に外してたのも気付かれてるよね。
会うかも知れない、そう思ってこの手で外した。
本当、卑劣極まりない行為だよ。
浮気する気満々なんだもん。
こんな素敵な人が居ながら忘れられなくて焦がれてる。