不埒に淫らで背徳な恋
第2章 【秘密を共有するのは罪ですか?】
社名を名乗る聞き覚えのある声。
え……なんで………?
声が出ずに居たら優しいトーンで
「チーフですか?」と聞かれた。
まだ一言も話してないのに何でわかるの
…?
「佐野くん……まだ居たの?」
残業なんてないでしょう?
ちゃんと定時で終われるように与えたんだから……もうとっくに退社出来てるはずなのに。
「すみません、さっき電話したの僕です」
鼻の奥がツンとする。
視界が揺らいでこぼれ落ちないよう上を向いた。
ダメ……平常心保たなきゃ。
「どした…?何かあった…?」
声、変じゃないかな…?
上擦りそうで長く喋れない。
「メールで報告しようと思ったんですけど、やっぱり声が聞きたくて…でも勇気なくて、気付いたらこんな時間まで」
何それ……業務報告なんて明日でいいのに。
声聞きたいとか今言わないで。
溢れちゃうから。
「迷惑…でしたよね?1回だけかけて出なかったらもう諦めようって思ってかけちゃいました」
「報告は明日聞くよ、もう帰りなさい」
「チーフならかけ直してきてくれるんじゃないかって賭けてました」
「賭けるの好きなんだね」
「あの、外ですか?今」
「ああ……うん、もう家に着く」
適当に嘘ついて誤魔化そうとした。
「声、聞けて良かったです」
「気をつけて帰るんだよ?」
「チーフ」
優しく呼び止める声。
トクン…と波打つ。
今声出したらヤバい。
「半休…ゆっくり出来ましたか?僕はチーフが半日居ないだけで不安でした…こんなんじゃNo.1取れないですね」
「大丈夫だよ、佐野くん覚え早いし頼りにしてる…」
「仕事で楽にしてみせますって見栄張ったけど…本当は今みたいなチーフを楽にさせたいです」
「え…?」
「まだほんの数ヶ月ですけど僕、ほぼほぼ毎日チーフの声聞いてるんですよ?何かあったことくらい声でわかります」
何よ……研修期間一緒に過ごしてるだけじゃない。
「あのね、オンオフはっきりさせてるだけよ。今は完全にプライベートだから声張ってないだけ」