不埒に淫らで背徳な恋
第4章 【許されぬ略奪でしょうか?】
「やっぱりステーキじゃなくてうどんが良かった?」
「えっ?」
「遅めのお昼なのに全然進んでないから」
「あ、ううん……さっきのバナナジュースが効いてるのかも」
「ほら、やっぱり交換しない方が良かったじゃ〜ん」
「アハハ………だね?」
上手く切り抜けたはずなのに頭の中でずっとさっきの出来事がぐるぐる回って離れない。
自分がボロ出してどうすんのよ。
だけど気になって仕方ない。
今………何考えてる?
私のこと、軽蔑した……?
軽蔑してるよね。
もう顔も見たくないくらい憎んでる……?
お手洗いだと嘘をついて電話してみる?
繋がったところで何を言うの?
焦って言い訳して謝罪するの…?
誤解しないでって?あれは嘘だからって?
何が嘘なの!?何が本当なのよ。
ダメ………冷静にならなきゃ。
「この後の映画、キャンセルしようか?」
「えっ?」
「体調悪いんじゃない?まだ来週でも上映してるし今日はもう帰ろう」
「うん……ごめんね?」
「バカ、無理すんな?」
今の私は……上手く笑えてるだろうか?
体調不良のフリして、ちゃんと誤魔化せてる?
稜ちゃんに……1ミリも疑われてないよね?
稜ちゃんは佐野くんの顔を知らない。
何回か会社のメンバーは写真で見せたことはあるけど佐野くんが加わってからは一度も見せてない。
新入社員が入ったことは耳に入れた……ただそれだけ。
だから今回はセーフ。
目が合ってたことも動揺してたこともバレないよう稜ちゃんだけを見ていたつもり。
引っ掛かってるとすれば、今のこの私の様子だろう。
ただの体調不良だと思われていればいいんだけど……
家に帰るまでも会話らしい会話は出来なかった。
冷静になろうとすればするほどこんなに取り乱しているなんて。
今更だけど、連絡すら簡単に出来ない関係だったんだ。
帰ってすぐベットに横になった。
人混みに疲れたフリをした。
ゆっくり寝てな…とブランケットを掛けてくれる。
ごめん…とだけ言って横を向いた。
稜ちゃんが寝室から出て行ったのを確認したら自然と涙が込み上げてきた。
泣く資格なんてないのに……肩が震える。
声を押し殺して……嗚咽さえかき消した。