不埒に淫らで背徳な恋
第4章 【許されぬ略奪でしょうか?】
慌てて涙を拭う。
泣いたらバレる。
でも………でも…………
行けない………本当は行きたい。
今すぐ傍に行って抱き締めたい。
きっと泣いてる………悲しみに暮れてる。
同じように肩を震わせているならこの手で………
なんて……何バカなこと思ってるんだろう。
出来もしないくせに。
今この家を飛び出す勇気もないくせに。
都合の良いことばっか考えて正当化したいだけじゃない。
結局は自分が一番可愛いんだ………
がっかりして反吐が出る。
それほどの覚悟だったんだ………
どんなふうに朝を迎えて出社してくるだろう。
どんな顔をする?
変な空気になるんだろうか。
朝、マンションを出てエレベーターで二人きり。
凄く体調を気遣ってくれたけど休む選択肢はまずないし、元気なフリも疲れるけど稜ちゃんの前では気を抜けない。
そこまで鈍感な人ではないだろうし。
駅までは仲の良い夫婦を演じなければ。
「終わったらメールするね」といつも通り。
「無理するなよ」って今日そればっかりじゃん…と笑った。
笑顔で手を振れてる私はとことん悪女だなって思う。
久しぶりに会社に入る前に深呼吸しちゃった。
でもここの扉を開いたら絶対にいつもの私になる。
常に冷静で周りを見てる……チーフとして仕事を全うするの…!
だからもう動揺しない。
顔に出さない。
だから……どうか。
一番最初に現れた彼に私が出来る最大で最良なことは……?
バチッと目が合って手を止めた。
仕事モードに入った私はきっといつもと変わらないはず。
良かった、彼が来た……それだけで一安心した瞬間、ヤラれた。
目尻にシワを寄せて可愛い笑顔。
「おはようございます、畠中チーフ」
朝一番にこの笑顔を見れたことに胸が熱くなる。
「おはよう、佐野くん」
まるで何もなかったかのよう。
ううん、決してなかったことには出来ないけれど精一杯空気をよんでくれている。
それが充分過ぎるくらい伝わって自分もそれに応えなきゃ…と思った。