
不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第33章 大人になれない
少しすると、この座敷の横を1人の女の人が通り過ぎた。
…と思ったら、なにやら瀬川くんに話しかけているようだ。
「えっ…ナオト?!」
瀬川くんは名前を呼ばれて振り返ると、一瞬かたまったあとで「…山下?」と答えた。
「久しぶりじゃ~~ん!!まさかだね!元気~?」
山下というらしいその女性は瀬川くんのことを”ナオト”と呼び、親密な様子で近づいて座敷のふちに腰掛けた。
「ちょっと…あれ誰?」
アンナが訝しげに言う。
「さぁ…分かんない…」
時折聞こえてくる話し声には、”紀子”や”離婚”という言葉が混じっていた。
やけに静かにお酒をちびちび飲んでいる私とアンナに気付いた平野がやってくると、事態を把握した様子で言った。
「あぁ、あの子…瀬川の大学の同級生だ。紀子ちゃんとも共通の友達」
「そ、そうなんだ…」
私の目は完全に泳いでいた。
彼女は時折、慣れた様子で瀬川くんの肩を叩いたり洋服を引っ張ったりして、とても仲が良さそうに見えた。
瀬川くんがこちらを気にしていることに気付かないフリをしながら、私は目の前のお酒をぐいっと一気に流し込む。
「ちょっとミライ…大丈夫?あんまり気にしないで…なんなら私、行ってこよっか」
「いい、大丈夫…」
平野も瀬川くんたちを気にしながら、私のおちょこにお酒を入れてくれる。
「アンナちゃん、喧嘩はやめてよね…」
「喧嘩じゃないけどさ!だってあんなの…見たくないじゃん」
私はもう一度、おちょこに入ったお酒をぐいっと飲み干した。
山下さんという女性はさっきよりも更に瀬川くんに近づき、楽しげになにかをベラベラと喋っている。
「ね、今度…-----。連絡先…---」
途切れ途切れに聞こえてくる言葉で、耳がつらい。
「ちょっと…トイレ行ってくるね?」
「ミライ…だいじょぶ?すぐ戻ってきてよ!あんなの気にすること無いから」
「うん…ありがと。大丈夫」
言葉の最後、ギリギリで涙目になった瞬間を平野が見ていた。
だけどそんなこと気にしている余裕もなく、私は席を立った。
