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不純異性交際(下) ―それぞれの未来―

第36章 過去と現在


「ミライ…もう、行こう?」


私の背中をさすりながら奈美が言う。


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「紀子、彼氏とラブラブだもんね。未練なんてないよね、そりゃ~」


「うん。順調♪なんでも言うこと聞いてくれるし~(笑)お古で良ければどうぞもらって~って感じ」



…それが、私たちが耳にした最後の会話だった。



背を向けながらそそくさと店を出ると、私はもやもやとした感情をどう吐き出せばいいのか戸惑う。


「まさか紀子が来るなんてね…ミライ、平気?、じゃないよね…」


「ううん。すっごい嫌な気分だけど、大丈夫。それに、こんなことがあったからってアップルを避けたくない」


「うん。…またみんなで来ようね!堂々と!」


「うん!」




あてもなく少し歩き、奈美も何も言わずに付き合ってくれる。



「ねぇ、奈美」


「ぅん?」


「今日のこと、他の人に言わないでほしいの」


「うん、言わない」


「すっごい怒れるけど…今私、瀬川くんと一緒にいれて幸せだし」


「うん」


「の、紀子も…新しい道に進んで…うまくいくといいねって思うし…」


「うん…」


「紀子が”お古”って言っても、そんなの関係なく…瀬川くんを…大事にする…ッ」


「うん、うん…」


だんだんと涙ぐむ私の肩を抱き、奈美もせつなげに相槌を打った。




-----…


あれから数日、私はいつもどおり瀬川くんとの朝の電話をし、夕方にはまた”お疲れ様”の連絡を取る。


紀子と居合わせてしまったことは瀬川くんにも、誰にも話していない。






週末、電車に乗って彼に会いに行く。


瀬川くんが作ってくれた「セガワ ナオト」と印字されている電子パスを使うたびに、私の心は少女のように踊る。




「そろそろ残高なくなってきたろ?」


「ううん、だいじょぶ。自分でチャージする」


「いや、いいって。日曜に送るとき、俺がする」


「んもぅ。たまには私にもお金出させてよぉっ」


「ふふっ。」



ごまかすように笑う彼は、握った私の手を引き寄せた。


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