不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第6章 名前のない関係
1時間という制限はあるが、2人きりでゆっくりお風呂に入れるこの施設を私はすごく気に入った。
すごい、すごいとはしゃぐ私を見ると、瀬川くんは上着を脱ぎながら
「そんなにお前が喜ぶなら、あとで平野に感謝しとかないとな(笑)」
と笑った。
2人並んで体を洗い、温泉に浸かると「はぁ〜〜〜…っ!」
と同時に大きな息を吐いた。
「きもちいい〜…」
「んー…たまには温泉もいいもんだな」
体が温まってきた頃、瀬川くんに腕を引かれて私はうしろからすっぽりと包まれる。
この、彼の膝の中は、私だけの場所…。
また私の独占欲が顔を出し、あわてて振り払う。
瀬川くんはいつものように私の首筋にチュッとキスをすると、優しく抱きしめた。
「ねえ」
「ん?」
「俺のこと好き?」
突拍子もない問いかけに、私は一瞬黙ってしまう。
分かりきっている事ではあるけれど、しっかり伝えたい気もした。
「す……好きだよ。…とっても」
瀬川くんの腕の力が強くなり、抱きしめられたまましばらく沈黙が続いた。
「俺もお前のこと、好きだよ」
「…うん」
心が満たされるが、それでも私たちは恋人ではなかった。
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温泉施設を出ると車に乗り込み、私のアパートへ向かって走り出す。
寂しさが募り、ついうつむいてしまう私に「どうした?」と瀬川くんが心配している。
「ううん、大丈夫」
彼は運転しながら左手で私の髪を撫で、手を握った。
アパートに着くと私たちは長いこと抱きしめ合い、何度もキスをした。
離婚届を出す前日に、夫ではない男性とこんな時間を過ごしている自分が酷く劣った人間にも思えた。
私が部屋に入るまで瀬川くんはこちらを見ていて、手を振りドアを締めると外から車が発車する音がした。
自分のアパートで1人で眠る初めての夜、急激にとてつもない寂しさが襲った。
携帯を確認すると、バラ組のトークルームはチーズタッカルビの話題で盛り上がっていた。
もうひとつ、アンナからの個別メッセージも届いている。
[ミライ、時間あるとき電話して(>_<)]
私はすぐにアンナに電話をかけた。