不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第7章 初めてのキス
数時間仕事をこなしていると、ガス屋さんが来る10時になりチャイムが鳴った。
無事にガスが開通すると、新しい台所で料理をしたい気持ちが急に強くなる。
近くのスーパーへ買い物に出掛け、帰り道に荷物を運びながら(車、買わなきゃかな…)とぼんやり考えた。
ちょうどお昼時でお腹も空いてきたのでパスタを茹で、カルボナーラを作った。
フミはパスタが嫌いだったから、これからは心置きなく自分のためだけにパスタを作れる。
フミはご飯どうしてるかな…。
連絡しようか一瞬迷ったが、今さら未練がましい事はしたくない。
そう思い直し、昼のニュースを関心もなく眺めながらカルボナーラを堪能した。
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部屋の片付けや仕事をこなし、夕方になると瀬川くんの電話を待ちながらキンパを作り始めた。
久しぶりの作業は楽しく、お気に入りの音楽をかけながら過ごすその時間はとても充実したものだった。
もう逃げるように仕事部屋にこもらなくてもいいし、夫の顔色を気にして夕飯の献立を考えなくてもいい。
この部屋で、好きなように過ごせるのだ。
離婚して良かったなと、初めて実感した瞬間だった。
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もうすぐ19時になるというのに、瀬川くんからの連絡がない。
今日は部活がない日だから遅くても17時には終わるはずだけれど、どうしたんだろう…。
とうとう19時半を過ぎ、私は心配になって瀬川くんのトークルームをひらいた。
メッセージを送ろうと文字を打ち始めるその瞬間、瀬川くんからの電話が鳴る。
ビクッと驚いたが、すぐに通話ボタンを押した。
「もしもし?今、心配でちょうどメッセージを送ろうとしてたの」
「遅くなってごめん。今日はのんびり出来た?」
「うん、買い物いって…キンパ作ったの。まだ食べてないけど、結構うまくできたよ」
「そっか。食いたいな(笑)」
「ふふっ」
「ね、今、家?」
「うん、そう」
「…ちょっと会える?」
「えっ?!」
「今ついたから(笑)」
私は気持ちより先に走り出し、玄関を開けると駐車場には本当に瀬川くんの車が停まっている。
サンダルをひっかけて駆け寄ると、「来ちゃった」と彼は笑った。